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仙台高等裁判所秋田支部 昭和24年(を)23号 判決

被告人

高橋宗太郞

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月及罰金一万円に処する。

右罰金を完納することが出來ない時は金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

趣意第一点の要旨は原審公判における檢察官の被告人には前科があるとの冐頭陳述は本件公訴事実外にわたり裁判官をして被告人に惡性あるとの偏見予断を抱かせる事項に外ならないから刑事訴訟法第二百九十六條違反である。然るに原審裁判官は之を制限しないのみかその証拠の提出を求めて被告人の前科調書を法廷に顯出せしめ更に檢察官に対し前科に関する被告人の尋問を許した等手続上の違反を重ねた。そして右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかだから原判決は破棄を免れないというに帰するので按ずるに本件起訴状によればその公訴事実中には被告人の前科が含まれてないのが明らかなのに原審公判調書記載によれば檢察官が証拠調のはじめに右前科を述べてることは所論の通り認められるし前科が犯罪の成否に何等関係がないことは勿論だが犯人の前科は犯罪の情状に至大の関係があるのでその量刑上考慮すべき事項として取調べねばならないこと亦疑いない。しかも原審公判調書記載によれば檢察官の該冐頭陳述は被告人が卒直に公訴事実を認めた後情状に関する事実として述べたことが認められ、前科調書を証拠とすること及びその証拠調について被告人及びその弁護人が何等異議なく極めて適正円滑に訴訟の進行したが経路が窺われ原審訴訟手続に所論の如き非難をうくべき瑕疵あるを認め得ない。論旨は全く独特の意見によるものといわねばならないので到底採用しない。

趣意第二点の要旨は改正前の刑法の規定によれば本件と連続犯の関係に立つ別件控訴したる事按のため被告人が昭和二十三年九月二十四日秋田地方裁判所において懲役一年及び罰金一万円の言渡をうけたが同事件判示第三の事実は本件判示第二事実の一部といい得るものであり、当該事実の追起訴前、被告人が本件事犯を檢挙されたことを檢察事務官に述べたから同件判決前、本件をも一括起訴さるべきであつたにかかわらず、本件は発覚後九ケ月を放置された後起訴されたため別件が本件の前科として取扱われたうらみがある。

本件は三口で合計代金九千八百円の粳米を買い受け、三口で合計代金四千五百円の肥料買い受けに過ぎない。被告人に之を賣つた者はいづれも大水害の罹災農民で病家族の藥價や農耕費に困つた上の取引で大いに助かつた。特に被告人方は九人家族で生活が容易でないのに病妻が昨年春以來病院通いしてる等の事情等斟酌すれば原審の科刑があまりに重いので量刑不当だ。別件と照らし合わせ公正な裁判を仰ぎたいというにあるので按ずるに本件記録によれば原審認定事実は被告人が法定の除外事由なく第一、同年六月十九、二十日の両日頃三人の生産者から粳玄米五十六瓩粳精米計九十八瓩を合計代金九千八百円で買い受け、第二、同月十九日頃三人の農民から各別に一叺づつの硫酸アンモニヤを合計代金四千五百円で買い受けた各所爲で昭和二十四年四月二十八日懲役一年及び罰金二万円に各処されたことが認められ、原審公判調書記載によれば被告人が昭和二十三年九月二十四日秋田地方裁判所に於て食糧管理法違反事件により懲役一年及び罰金一万円の言渡しをうけたものだが控訴中だと述べたことが認められ本件事按が何れも所論挙示の別件原審の言渡前に係ることが明らかであり是等の事情及び犯罪後の被告人の行状その他記録にあらわれた諸般の情状等考量すれば原審の科刑重きに過ぎその量刑失当といわねばならないので結局この点に関する論旨はその理由があるので刑事訴訟法第三百九十七條により原判決を破棄し、而して訴訟記録及び原審において取調べた証拠によつて自判出來るものと認め同法第四百條に則り直ちに判決する。

以下省

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